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第300回 長期展望<8/11>

 株は必ずしも長く持てばよいというものではないことは痛感しています。信用取引なら危険だが、現物の長期投資だから安心だと言う人がいますが、同じ銘柄を同じだけ買えば、リスクはほとんど一緒のはずです。むしろ現物だからこそ、長く持ちすぎて、損が途方もなく拡大してしまった例も枚挙に暇がありません。
 だから、長期投資か短期投資かどうかは投資家の好みの問題だとしても、相場の流れや銘柄の人気の流れを判断するうえで長めの視点を持つことはぜひ必要なはずです。短期投資だからといって、先のことを無視して今は今でやればよいというものではないと私は思います。その点で、理解に苦しむのは、インボイス(9448)の直近の動きです。

この銘柄は6月末に1対11の株式分割の権利を落とし、来週19日から親株の11倍の分割新株の売却が可能になります。その需給関係の悪化を目前にして、このところ人気が再燃しており、昨日も一時ストップ高の43,000円台まで買われました。問題は、発行日取引の値段と乖離していることです。ストップ高の時点で新株は26,000円であり、旧株は新株より17,000円も高く買われていました。そのあと急落し、旧株の終値は36,750円でしたが、それでも新株の終値より12,050円(率にして48%)高い値段です。
 新株を発行日取引で買うと、23日まで通常取引では売却できないというハンディがありますが、それ以外の不利はありません。かつ発行日取引の出来高も十分にあります。したがって、経済的な真実として、次のことがいえます。
 @インボイスという会社を有望と考え、10日以上持つつもりで投資する人は新株を買わないと12,000円の損をする。
 Aインボイスの株価が23日までに12,000円以上下がる可能性が非常に小さいと見れば、新株への投資も一法。
 にもかかわらず、合併間近の新株と旧株に大きな価格差がほぼ安定的に続いていることから、逆に次のことがいえます。
 まず@から、現在インボイスを買っている投資家は、10日以上持つつもりがないといえます。(新株のことを知らないという説明は非現実的です)
 次にAから、それらの投資家を含む市場全体として、23日までに株価が急落する可能性が非常に高いと認識していることになります。
 近々に急落する可能性が高いと思っている銘柄を、あえて短期的な思惑で買っている(今日も始まりは買い気配!)わけですから、私にはまったく理解不能の世界です。

 さては本題に戻って、今回は「長期展望」という表題がまず最初に思い浮かんでこうして書いているのですが、正直なところ、先週あたりの私はかなりへこたれてきました。朝起きて米国の株価を見てげんなりし、昼にはUFJの不良債権額にうんざりする日々でした。日本企業があっと驚く増額修正を発表しても、どうせ・・・・と気持が萎えてしまいます。こんなことではいけない、できれば株式市場の長期的なトレンドに自分なりの目安をつけ、リスクを整理し、信念を持って日々の相場に臨みたいというのが切実な本音です。

 今朝は日経平均が1万1千円を回復して始まっています。
 自分なりの長期展望を持つうえでの最大の焦点は、現在も昨年4月以来の上昇相場が続いていると考えるかどうかです。
 日本の株価は、バブル崩壊後90年代に主に3回の戻り相場を出し、その上昇期間は1年強、平均株価の上昇率は60%前後でした。もし今回、昨年4月出発の上昇相場がいったん終わったと考えるなら、上昇期間と率で過去3回とほぼ同じです。もし90年代と同じく、今回も大勢トレンドに変化がないままの単なるリバウンドに過ぎないとすれば、日本経済の底入れそのものに大きな疑念が生じかねません。
 ただし、実体経済から見る限り、過去3回の状況とは大きく異なり、昨年4月を起点として新しい状況が始まったことがほぼ確実だと私は思います。

 大切なことは日本経済の大きなトレンドが変化したというその認識であり、したがって日本の株価が昨年を起点に90年代とは違う大勢局面に入ったと考えれば、移動平均線を下回ったから上昇相場が終わったとか、金融相場が終わったから次は業績相場だとかいうような議論は、大きなトレンドの中の枝葉末節の問題に過ぎず、二の次以下の問題であると私は思います。

 民需主導による日本経済の底入れ・転換を買う大きな流れの中で、日本の株価の先行きには今後も様々な紆余曲折が待っているのは当然とはいえ、どのような場合にも、90年代ほど悲観的になる理由はほとんどないはずです。今朝のTVの株式番組で、「悪材料が10指に余る」と解説している人がいましたが、確かに悪材料を列挙するのに困らないとしても、どの1つとして90年代の悪材料ほど険悪なものではなく、むしろ贅沢な悩みといえるほどです。
 ところが、大底を入れたあとの回復期の相場では、投資家がつねに警戒的であり、悪材料が悲観的な方向に増幅されやすいという傾向が顕著です。本当は、景気絶好調の局面とその反落期こそ恐ろしいのに、投資家はそのずっと前の回復段階でもっとも懐疑的な気分を強く持っているといえます。

 次に、月曜に出した私の顧客向けレポートの文章をそのまま引用します。

 <実体経済と株価の関係を図式化した場合、@経済回復初期の金融相場→Aその反落と調整→B経済拡大を買う業績相場→C好材料買い尽くしによる本格的な反落・・・・という循環で説明できます。日本の経済状況で考えた場合、現在がAの局面、すなわち経済回復初期の相場から次の段階に向かう踊り場にあることは明白です。一方、米国の場合は、90年代の長期的な経済拡大の後だけに、経済の爛熟感を否定できませんが、ネットバブルの崩壊により1つの長期循環が終了したと考えれば、現在はやはりAの局面にあるといえます。通常、@からAに移行する直接の要因は、経済好転に伴う資金需要の活発化による株式需給の悪化と金利上昇、それに伴う気迷い感の増大ですが、その点で現在の米国の状況はほぼぴったりあてはまります。>

 この文章では、現在の日本の相場状況がAの反落局面であることが明白としていますが、本当は@かもしれないとも思っています。いずれにせよ、最初に述べたとおり、現在が、昨年4月からの上昇局面の調整期にあるのか、それともまだ上昇のまったっだ中にいるのかは、あまり大きな問題ではないと考えます。
 長期的な視点で、日本企業の収益構造の変化を前向きに評価していきたいものです。


第299回 座標軸が試される<8/4>

 1970年代から80年代初めにかけて、日本の株式市場ではPBR1倍は底値、PER20倍以下は割安という常識が定着しました。不動産をはじめとしてモノの価格は右肩上がり、企業業績も全般に右肩上がりという状況の中で、PBR1倍(帳簿上の解散価値)を下回るような株価は考えにくく、PERも極端に下ブレしなかったのは当然ともいえます。
 まず既成概念が覆ったのはPBRのほうで、PBR1倍を下回る株価が続出しはじめたのは、90年代後半です。企業の抱える不良債権や保証債務、含み損などが表面化し、日本企業のバランスシートは信じられないというムードが一気に台頭しました。
 買う人がいなければ株は上がりません。堅実経営で好業績・資産内容良好の企業まで、不人気だという理由だけで、PBR1倍の半分以下に売られていたのが去年春までの相場です。例えばほんの一例で、7月に収益性を評価し5000円台まで乗せてきたローランドDG(6789)は、2年前にも十分に好収益であったにもかかわらず、不人気という理由だけで解散価値の半分以下の400円台に売られていました。
 昨年来の相場上昇で、PBRで異常なまで低い評価を受けている銘柄はほとんど姿を消しました。かつてのようにPBR1倍が底値という常識はあてはまりませんが、企業の資産がよほど悪質か、業績に険悪な不安がない限り、少なくともPBR0.5倍までは売られないだろうという目安は立ちそうです。
 その一方、PERのほうは、ここにきて既成概念(在来の常識や目安)が大きく揺らいでいます。

 今回の四半期決算発表で、最初に大きな増額修正を発表したのは7月20日の東京製鉄でした。1株利益174円から264円への上方修正だったので、当然買われるかと思っていたところ、翌日以降の株価はさえず、PERは6倍台です。その後の大きな増額修正は、アドバンテスト、東京エレク、ディスコ、東京精密などの半導体製造装置関連ですが、これらも発表直後の反応は鈍く、PERは14〜5倍に止まっています。一昨日増額修正した川崎汽船も、株価はさすがに上昇しているものの、PERは6倍台にすぎません。エプソンは7月中に2度増額修正を行い、株価もそのたびに素直に買われていますが、それでもPERは13倍台にすぎません。
 これらの株価は、「PER20倍以下は割安」というかつての日本市場の常識はおろか、「業績が好調なら、ハイテクで20倍以下、市況産業で10倍以下は買える」という比較的にグローバルな既成概念も覆しています。
 もし株価が正しいとすれば、バリュエーションの上から導き出される結論は次の2つのいずれかです。
 @1〜2年のうちに業績が急悪化し、利益が半分以下になる。(分子の縮小)
 A急落はしないが、業績が長期的に低迷する可能性が強い。(分母の条件悪化)
 B金利が急騰し、株式の価値が相対的に低下する。(分母の増大)

 上記のうち、国債相場から見てBは考えにくく、あるとすれば、@かAです。
 ところが、少なくとも半導体関連では、日本の企業自身の考え方は@やAと大きく違うことが報じられています。
 例えば、東京エレクトロンの東会長は、半導体製造装置は来年もプラス成長見込みで、年後半以降に調整があっても浅く期間は短い(マルテックス・インベスター)http://ml.multexinvestor.co.jp/editorial/EditorialContent.asp?edid=120040803という見方を述べていますし、前回も紹介したようにアドバンテストやキャノンなども現在の市場はあまりにも悲観的で間違っているという意見を公表しています。

 はたして市場が間違っているのかどうか、それを証明するのは結果です。だから、結果がどうなるか分かるまで、しばらく様子を見ようかと大半の投資家が考えるわけですが、私も現状ではそういう立場の選択も仕方がないと理解します。
 ただし、リスクとリターンを天秤にかけた場合、現在は投資にとってそれほど悪い時期ではないと積極的に考えるべきではないか私は思います。

 市況関連をひとまずおいて、半導体関連でリスクとリターンを考えるとおよそ次の通りです。
 まずリスクとしては、仮に業績が悪化しても、株価位置から下値不安が限定的。(例えば、東京エレクトロンは現在5300円台だが、大赤字とテロ急落が揃った2年前の安値が3870円であることから、ある程度の下値安心感が成立する)
 次にリターンとしては、PERが低いので、リーズナブルに相当な上値目標を設定できる。(東京エレクの同業である米国のアプライドマテリアルはPER20倍であり、現在の米国並みに買われるだけで、7500円への水準訂正が期待できる)
 
 次に、半導体関連と海運・鉄鋼など市況関連をひっくるめて考えれば、共通していえることは景気敏感であるということです。
 米国では低金利・景気拡大の時期がすでに去ったことが明白ですから、景気敏感株の足取りが重くなるのは当然です。しかし、日本は明らかに経済の波動が違います。現在が長期低迷からの回復期であるという認識に立てば、半導体や市況関連の業績好調が今期を限りにしぼんでいくということはまったく考えられません。というより、企業の収益構造が根本的に変化し、それが現在の業績好調→景気全般の底上げ→経済の長期低迷からの脱却につながっていると考えるほかには、日本経済の先行きに明るい将来像を描くことは難しいのではないでしょうか。
 米国はともかく、日本の相場では、次の上昇局面でも引き続き景気敏感型の銘柄が買われるはずだと考えます。

 結論として、PERとPBRは引き続き重要な座標軸として機能していくと私は考えます。

 最後に、PERとPBRの組み合わせの上から、注目例を一つ。
 半導体関連のMARUWA(5344)が先ほど小口売り物で1620円と175円安と急落し、今は1720円に戻しています。この銘柄は、半導体関連の中では珍しいPBR1倍割れで、株主資本は2144円あります。一方、現在の予想利益は78円で、PERからは他の半導体関連ほどの魅力がありません。
 6日に四半期決算を発表しますが、もし他の半導体関連のように上方修正すれば、PER面からも魅力が出る可能性があります。現時点では不明ですが、もし多少業績が悪くても、PBRから下値は限定的と考えられ、リスクとリターンを天秤にかければ投資魅力があると私は考えます。


第298回 正念場<7/30>

 更新が遅れて申し訳ありませんでした。更新がないのは、双日の下げで精神的にへこたれているからではないかということで、励ましのメールも頂戴しましたが、実はこの文章をHPに登録してくれる人が急に休まざるをえなくなったという理由で、書きたくても書けなかったのです。
 ただし、精神的にへこたれそうになったのは事実です。双日が14日にザラ場で624円まで買われたあと急落に転じて以来、いくら腹をくくっても、胃がジンジンと痛む毎日で、しかもそこに胃の再検査と肺の再検査が重なり、前回もちょっと比喩のように書きましたが、「肺癌の可能性」を医者からほのめかされたのは事実で、まさに視界が暗くなり、その場にしゃがみこみたくなる瞬間もありました。
 (その後、身体のほうはまず太鼓判という結果になりました)

 現在の相場の焦点が、まず第一に半導体を中心とするハイテク企業の先行きをどう考えるかにあることは間違いありません。
 例えば、アドバンテストのPERは今回の増額修正で14倍台まで低下しており、市場は先行きを相当に悲観的に見ていることになります。また、昨日はパイオニア、NEC、NECシステムなど、会社ではおおむね予定通りという決算を発表したにもかかわらず急落する銘柄が目立ちました。
 私は、日本のハイテク企業は、アジアに近くデジタル家電に強い分、米国よりも明るく、米国市場の悲観をそのまま持ち込むのは「市場の誤り」というアドバンテストなどハイテク企業自身の見方(日経金融7/29)に賛成です。

 第2の焦点は、UFJの統合問題です。これは、関係銀行とUFJの大口融資先だけの局部的な問題ととらえる人もいますが、そのようなことはないはずです。昨年のりそな問題の決着が全体相場の上昇にインパクトを与えたように、UFJ問題の帰趨は全体相場の動向に大きな影響を与えるはずです。

 さて問い合わせのメールを頂戴しております双日についてです。
 私は以下のように考えています。

 1.双日が法的整理になる確率はゼロに近いと考えます。UFJの動揺が続けば、双日の信用が揺らぎ、主力行以外の融資の継続に黄色信号が点るのは事実だと思いますが、だからといって何かのはずみに資金ショートが起こるほど、日本の金融システムは脆弱ではないはずです。総合商社の急激な万一は、株主だけではなく、社会全体への影響が大き過ぎますので、本格的な信用不安は発生するはずがないと考えるべきです。
 2.とはいえ、当面の株価については予断を許しません。1つは、ダイエーや大京に比べて株価が高いという単純かつ非合理的な理由であり、もう1つは、総合商社の業態上、資産の健全性を合理的に証明するのはきわめて難しいというやや合理的な理由です。このような状況の中では、「カラ売りの買い戻し以外には買いが入りにくい」と日経金融に酷評されている通り、本格的な投資姿勢で買い向かうことはきわめて難しく、株価は見切売りや思惑的なカラ売りに押される展開とならざるをえません。私は、当面については200円台の前半まであるかもしれないと覚悟しています。
 3.目先不透明なら、一度売っていたらどうかという意見もあります。もし上がりだしたら買いなおすという器用なことができればそうしますが、これまでの経験では非常に難しいことです。双日は(非常に低い確率の倒産の場合を除いて)最終的には大きな投資成果につながると確信しますので、持続することが最善と考えます。

 双日株に大きな投資成果を期待する理由は以下の通りです。
 1.双日は過去にダイエーや大京のように債務免除を受けておらず、もし今回先日発表された資本増強策が実行されれば、第三者割り当て増資(昨年実施)+優先株(2回)のオリコ型の信用回復となる。オリコは大量の潜在株式(優先株)があるにもかかわらず、現発行株式での時価総額は約2,000億円に買われている。オリコの経常利益は前期336億円、今期予想454億円であり、双日が前期485億円、今期800億円前後の収益レベルにあることを考えれば、少なくともオリコ以上の時価総額であってよく、現発行株数で割れば、妥当株価は1,000円以上になる。
 2.双日の含み損については、@商社という業態、A旧日商岩井の姑息な損失処理、BUFJの不良債権処理策への不信などにより、まだあるのではないかという疑惑が一般化しているが、そもそもUFJ問題の発端が双日などの含み損資料の隠蔽発覚であったことで、今回の発表はその最悪シミュレーションを踏まえたものと考えられること、およびそれ以来準マスコミに「東京三菱銀行関係者談」と伝えられた含み損金額にほぼ一致していることにより、少なくとも今回発表の2,500億円規模を大きく上回るものではないと考えられる。
 3.含み損失が現在の株主資本3,000億弱+今期利益500億円の3,500億円を上回らない限り、債務超過ではなく、株主責任を問うことなくオリコ型の信用回復が可能。また、万一債務超過になっても、100%減資は考えにくく、相当な株式希薄化を見込んでも、収益力から依然投資魅力がある。

 以上が現在の私の考え方です。


第297回 不安感に打ち克ちたい<7/21>

 昨日の午後はちょっと足がすくみました。このところ顧客に勧めていた半導体株が軒並み安値更新となる中、「下値が堅い」と思っていた双日が急落、値動きだけ見ればまるで倒産に向かって一直線という下落でした。
 健康診断で引っかかり、再検査になり、その結果を廊下で待っていたら、「癌かもしれないね」とおしゃべりする看護婦の声が聞こえてきたようなものです。
 自分のことをしゃべっているかどうか冷静に考えるゆとりなんかありませんね。全身の血が引いて、頭が真っ白になってしまいます。

 株をやっている以上、様々な恐怖と闘ってきました。いったん頭をもたげた不安感は、いくら理屈を並べても打ち消せません。特に株価がパニックを起こしたかのように急落するとき、平常心を保つには、覚悟を決めて、腹をくくるしかありません。
 今朝は、前場が始まる前にこれを書いています。
 米国市場が反発したので、日本の半導体株も底入れ有望と考えます。シリコンサイクルがピークを打ったので、今後半導体関連企業の業績はどんどん悪くなるという悲観論が一部にあり、市場の大半ははっきりとした信念が持てないまま不安感に引きずられているのが現状だと思いますが、4年前の天井打ちの在庫増加と現状の在庫増加でははっきりと状況が違い、過大な期待は持てないものの、どんどん悪化するというような不安感も持つべきでないと考えます。
 問題は、UFJと一緒にまな板の鯉にされている双日ですが、仮に資産の評価の仕方によって自己資本の3000億円を超える損失処理が必要になっても、双日の商権の価値を考えれば、株主価値がゼロになることはないはずだという見きわめにより、新事業計画が確定するまでの当面の動きについては、腹をくくるしかないと考えます。

 今日は忙しくなりそうなので、これで失礼します。


第296回 風雲走る<7/14>

 今朝のサプライズは、なんといっても三菱東京とUFJの統合のニュースです。
 ただでさえ、今日はインテルの決算を受けて、日米の半導体株がどう動くかをかたずを飲んで待ち構えていたのですが、この大ニュースで、他の銀行やUFJ系の財務問題企業はもちろん、内需関連企業が広範囲に刺激を受けることになりました。
 そこにきて、私にとって大きなできごとは、双日の債務の株式化についての朝日新聞の報道です。もし事実なら、金融支援といっても債務免除ではないので、株主責任が問われるはずがなく、希薄化懸念を考慮しても株価にとって好材料であることは疑いありません。
 加えて、日経の市況欄に、ここにきて回復してきた海運市況が少なくとも年内は好調を持続しそうだという観測記事が出ました。もっとも、記事が出たことは目先的にはいいことか悪いことか分からず、前日川崎汽船が600円乗せ目前となり、顧客ともども買い乗せか一部売却か迷っていた矢先なので、顧客と相談しなおす必要が生じました。
 すなわち、今朝は私にとって、@銀行を中心とする内需関連株、A半導体を中心とするハイテク関連株、B双日という個別株、C海運・鉄鋼などいわゆる中国関連株に風雲急を告げる材料が出て、四方八方から判断を迫られる状況となりました。

 以上を書いたところで、前場に突入し、いまは午後12時45分です。
 前場の結果は、@は銀行中心におおむね堅調、Aはアドバンテスト、東京エレクなどが安値更新、Bの双日は30円高で寄り付いたあと、78円高まであって35円高と不安定な動き、Cの海運・鉄鋼は朝高のあと、午後にかけて急反落というふうに、様々に明暗を分けています。全体としては銀行高にもかかわらず、ハイテク安で日経平均は70円安、まさに混沌としており、何をどう考えてよいか、きわめて難しい状況といえます。
 今後の相場展開の予想としてではなく、一投資家として自分だったらこうしたい、という視点で考えた場合、採りたい行動と採りたくない行動は次のとおりです。
 1.三菱東京は目標株価を上げたい。(規模が大きくなるからではなく、UFJを1対0.5程度の条件で取り込むことにより、1株あたりの収益力が増加し、安全度はほとんど変わらないので、株としての魅力が高まるから)
 2.UFJは統合比率があまりにも不透明なので、目先のお祭り騒ぎに参加するのは慎みたい。
 3.UFJ関連の問題企業への投資は慎重に行いたい。また、みずほ、三井住友は全体相場次第なので、金融ならいっそ安値圏の大手証券株を狙いたい。
 4.半導体は、安値更新で下値めどが見えなくなったが、大きな下値不安はないと考え、押し目買い姿勢で臨みたい。(来年の半導体需給が悪化するとしても、谷がそれほど深くなると考えられず、さらにその先の好転を考えれば、株価に対してメリルリンチがいうように悲観的になる 必要があるとは思えない。ましてや、日本の半導体は米国よりやや明るいはず)
 5.双日は、一昨日のムーディーズの格上げが示すとおり、今後日に日に安心感が増大し、8月6日の四半期決算が順調なら、株価は上離れすると考える。(14時過ぎ、2円高まで伸び悩み、目先の上値は重くなりましたが、下値も堅いと考えます)
 6.鉄鋼・海運は、今日の動きが示すとおり、好材料出尽くしを怖れながらの局面に入ってきているので高いところは買いたくないが、相場は意外に長期化する可能性があると考え、持ち株は持続したい。
 
 以上のスタンスで当面の相場に対応していきたいと考えています。


第295回 平均株価の続落<7/7>

 現在9時35分、日経平均は4日続落模様で、11,300円を前後しています。
 我々のほとんどは、日経平均を中心に相場を見てしまいます。せめてもう少しましな指標であるTOPIXでその日の相場を語りたいと思うのですが、日経平均(もしくは俗にダウ)180円安というとすぐ通じるのに、TOPIX17ポイント安といってもピンとくる人は私自身も含めてほとんどいません。
 日経平均には大きな恨みがあります。4年前のネットバブルの天井時に銘柄を大幅に入れ替え、市場に混乱をもたらしました。銘柄入れ替え時の馬鹿騒ぎもさることながら、相場水準の測定についての連続性を大幅に狂わせたのです。自業自得とはいえ、急落後私がわりと早く強気に転じ、その後の大損につながったのは、日経平均の1万6千円台はそろそろ安値圏というそれまでの経験に基づく「値ごろ感」のためでした。
 以来、私は、日経平均で相場水準を測ろうとは思わなくなりました。

 もっとも、日々の市場では、日経平均が米国のダウと同じく、市場のセンチメントを測る上で重要な働きをしていることは疑いありません。裁定取引と関係のない銘柄でも、主力株系の銘柄は、日経平均が上昇傾向を見せれば、ほぼ瞬時に買いが入ってきますし、逆の場合もまたそうです。小型株に特化している人は別にして、多くの投資家や証券マンが日経平均のモメンタムをかたずを飲んで見守っていることを如実に感じます。
 その現実は、たしかに認めざるをえません。私自身も、日経平均の日々刻々の上げ下げに一喜一憂せざるをえません。しかし、そのうえで、私は当分、というより中期的に、日経平均の上げ下げをなるべく気にせずに、自分の投資方針を決めていこうと決意しています。

 そもそも、自分がなぜ株を買おうとしているかです。日本の株が総体として今後むちゃくちゃに騰がると考えるなら、個別銘柄にこだわらず、パック(ETFなど)に投資すればよいわけです。しかし、日本の株が総体としてむちゃくちゃに上がるためには、企業業績があっという間にものすごくアップするか、期待感の上昇で平均PERがむちゃくちゃにアップするかのいずれかの条件が必要ですが、前者は望ましいもののそれほどは期待すべきではないと考えますし、後者、すなわちバブルの再来でPERがむちゃくちゃアップすることはもう懲り懲りと思うのは私だけではないでしょう。
 したがって、私は、日本株のパックに投資することは、長期国債や個人国債に投資するよりはましと思うものの、積極的に意欲を感ずべきほどの「投資」にはならないと考えています。例えば、時価総額の大きいトヨタやNTTドコモに投資して、損はしないかもしれないが、やった!と思えるような成果にめぐり合える可能性をリーズナブルには想定できません。トヨタやNTTドコモが現在とそれほど変わらない利益水準で、株価が居所を大きく変えるようなバブル相場はもう二度とご免です。

 ただし、私が買いたいと思う銘柄は、小型株とは限りません。前回も申し上げたように、大型でも東レやKDDIには、企業の質と規模が大きく変化する可能性という点で、中期的に大きな魅力を感じています。
 臨時に追加で、昨日新安値のニチイ学館です。軽度の介護支援(家事支援)の保険適用の見直しを悪材料にしていますが、全体の事業に占める比率が低いほか、ニチイ学館にとって必ずしも悪材料になるかどうかも不明です。この銘柄は、ヘルスケアではトップ銘柄といってよく、期待感からつねに高PERに買われてきましたが、今年に入り人気不振をかこち、昨日とうとう第一部平均並みのPER18倍まで売られました。
 この会社の着実な収益力と成長性から見て、多少の悪材料があってもPER20倍以下で買えるのは僥倖と私には思えます。(もっとも、ディフェンシブ型ですから、あまり大きな上値を期待するわけではありません)
 中小型では、依然ハイテクに魅力を感じます。昨日エプソンがストップ高しましたが、業績が強い方向に動いているのはこの会社ばかりではないはずです。米国のハイテク株の動きに影響を受けるのは仕方がないものの、業績がよくてかつ中期的にも伸びる可能性がある銘柄には大きな投資魅力があります。例えば、日本電波工がそうです。ただし、この銘柄は春以降堅調が続いており、今回もあまり下げないので、むしろ買い増しのチャンスを見つけにくくて困っています。(今日もまさにそうです。反面、それ以上に魅力を感じている双日Hはこれでもかこれでもかというほど買いチャンスばかりですね)

 銘柄に投資魅力を感じれば、おのずから平均株価の上げ下げは二の次の問題になります。平均株価が上がれば、買う人が増え、個別銘柄の株価も上がりやすくなりますが、まだまだその銘柄を買い増ししたいくらいの投資魅力を感じている場合、買う人が増えるのはむしろマイナスで、いっそ日経平均が安いほうが大歓迎ということになります。
 もちろん、人間ですから、平均株価が上がり、自分の勧めている銘柄が値上がりすると、ほら見たことか、自分はやはり正しかった嬉々としたり、胸をなでおろしたりもしてしまうのですが、なぜもっと買わなかったかという悔しい気持ちもつねに並存します。

 日本経済がどん底に舞い戻りする可能性が強まれば、また日経平均の上げ下げに一喜一憂せざるをえない状況になるのでしょうが、そんなことでもない限り、私は日経平均を気にせずに日々の営業をやっていきたいと考えています。


第294回 様々なマインド<6/30>

 相場の転機はおうおうにして皮肉なタイミングで起こります。
 ちょうど1週間前の水曜日に、第一部市場の普通の株に躍動感がまったくないという例で、みずほ株がいかに小動きになってきたかというを書いた矢先に、1.8万円安と急激に下ブレしました。しかも、その日の終値43万円が安値になり、翌日からは一転して上昇、今日は50万円をうかがう動きです。
 半導体関連などハイテク株で見た場合、ほとんどがその前日の火曜のザラ場安値が当面の安値になったような動きです。
 私は金曜日から強気に転じ、ディスコ、豊田合成、日本電波工など中堅ハイテク株を中心に買い増しを勧め、一部の信用顧客のレバレッジがだいぶ上がりました。

 1週間前のその日、日経平均は0円安の11,580円でした。しかし、みずほに限らず、普通の銘柄を持っている投資家の実感は150円安で、私の信用顧客で普通の銘柄を買い建てていた顧客の預かり評価額は、前日比3%下落しました。
 昨日の日経平均は11,860円ですから、日経平均ではその日から2.4%の上昇です。しかし、上記の顧客の評価額は18.4%増と大幅にアウトパフォームしました。ちなみに、私の勧めをより多く反映して中小型株の比重の多い顧客のパフォーマンスは、日経平均0円安の日は1.9%アップでしたが、その後の上昇は6.6%に止まっています。
 すなわち、この1週間で、第一部市場の様相が大きく変化したことは確かです。そしてその変化は、5月半ばの反落から急反発したあと膠着状態に陥って以来のものです。みずほの50万円接近もさることながら、半導体製造関連や電子部品株の底入れ感が台頭したことが、投資家のマインドを大きく改善させているものと思われます。

 いま10時20分、今日はいまのところ全般に模様眺めムードが強く、三菱東京の102万円(3万円高)が目立つくらいですが、午後にかけて楽しみが多いと思われます。
 問題は7月にかけて、どういう銘柄がどういう買われ方をするかと予想するかです。
 ただし、結論を先にいうと、現在の相場状況は、ふだんほどその予想が重要ではなく、自分がこれならと納得できる銘柄であれば、その銘柄に投資することがいちばんではないかと考えます。
 つまり、第一部にも積極的な買い気がよみがえりつつある現在の相場は、様々なタイプの投資家が様々な考えで投資行動を行い、様々なマインドが市場に入り乱れている状況にあり、これはだめ、あれはだめということは簡単にいえないと思うのです。
 ざっと考えただけでも、次のような買いのモチベーションが列挙できます。

 1.銀行株はまだ上がる(日本株高の要だ)
 2.国際優良株はPER割安(いいものを買うのが本道)
 3.鉄鋼や海運など市況関連こそPER割安(今回の市況好調は長続きする)
 4.値動きは地味でも配当利回りは高い(値上がり値下がりに一喜一憂しない)
 5.中小型株に妙味あり(バリュー志向vs成長性志向)
 6.IPOと株式分割に集中投資(他の株はまどろしこしすぎる)

 以上のいずれの見解にも私は特に異論がありません。ただ、あえていえば、最後に挙げたIPOと株式分割銘柄に対する最近の人気の異常さ(一方通行性)には首を傾げたくなります。
 たとえばライブドアです。前に(4/24付)この会社が1:100の分割で売買単位を数千円に切り下げて、弊害こそあれなんの経済メリットがあったかという疑問を書きましたが、なんと今度はさらに10分割です。
 1単元が数百円になって、便利だと思う投資家がいるでしょうか。自社株の積み立てだって毎月1000円単位が最低でしょうから、数百円単位の売買はもはや金融取引とはいうべきでありません。ヘラクレスが、1単元1万円以下の銘柄は上場廃止にするということが報じられましたが、他の取引所もそうすべきと私は考えます。
 そのライブドアが、25日の権利落ち後毎日ストップ高で、今日はとうとう920円の買い気配です。この会社の社長は、若く積極的で、大阪バッファローズの買収にも名乗りを挙げたそうですが、もし1単元が1000円未満に下がっても、すぐにまた数十万円に買われるとでも考えているのなら、株式市場と実体経済を馬鹿にしているとしか思えません。

 話が横道にそれましたが、当面の相場では、単純な全面高は考えにくいものの、様々なマインドが入り乱れ、様々な投資方法が成功する可能性が高いと予想します。
 私自身は、上記でいえば、3と5に力を入れており、3では特に中山鋼、川崎汽船に期待(日軽金は塩漬け)、5ではここにきて前述のように中堅ハイテク株に強気しています(この系統では、大真空が塩漬けになっているものの、ここにきて田村大興、コーナン商事などが急上昇しており、大いに気をよくしています)。その他では、比較的に2といえる東レ、KDDIなど、ポピュラーな銘柄もやや長めの資金で力を入れています。


第293回 PER水準の変遷<6/23>

 このところ和製ヘッジファンドの短期売買の影響からか、日経平均は毎日結構な幅で上下動しています。しかし、第一部市場の普通の銘柄で見る限り、まったくメリハリのない値動きが続いており、普通の銘柄を好む顧客層を頼みとする我々の手数料は激減しています。

 たとえば、みずほ株を引き合いに出せば、4月高値から反落後の安値をつけた5月第3週には週間の高安差が8万円あったのが、第4週は4.1万円、6月第1週は3.9万円、第2週2.9万円、第3週1.9万円と、だんだん小幅な値動きに収斂してきており、よくいえば三角保ち合いが煮詰まりつつあると期待することが可能なものの、持っている投資家やその扱い者である我々にとっては、ため息が出る毎日です。(後記、そのみずほが午後に入って1.7万円安してきました。しびれがきれた人が投げているのでしょう)
 手をこまねいていないで、先物や新興市場の動いている株で稼げばいいじゃないかという意見もありますが、顧客のニーズや許容リスクを考えた場合、そう簡単に資金をシフトできない事情があります。
 ため息をついていても仕方がないので、今日は思いきりロングスタンスで、日本の株価構造について考えてみたいと思います。

 私は証券会社に入る前に3年ほど社会人歴があり、証券会社のお客として初めて株を買ったのは1975年です。最初はなにも分からないまま友人の勧める銘柄を買ったのですが、次第に面白くなり、自分で四季報をめくりながら銘柄を選ぶようになり、2年後、つまり77年に証券会社に転職してしまいました。
 当時、日経平均は4,000円台でした。4年前の5,300円台で過剰流動性相場の大天井をつけたあと、オイルショックで下げ、3,355円(サンサンゴゴ)のど安値からは回復したものの、上値の重い展開で、先輩たちはほとんどみな表情が暗く、まるで日本経済が活気を取り戻し5,000円台の高値をつけることはもう2度とない、とでもいうような諦めムードに支配されていました。
 あとで分かったのですが、トイレットペーパー騒ぎとともにつけたサンサンゴゴの安値は、あまりにも苦しい、なまなましい記憶として先輩たちの心を打ちのめしていたのです。その点で、現在の株式市場の状況によく似ています。

 いま考えれば、怖いもの知らずの私は、なぜ先輩たちが弱気なのか不思議でした。もっと不思議なのは、証券会社の勧める株には投資魅力のないものが多いということでした。おそらく、当時の大手証券は新日鉄などで無意味な出来高競争を繰り広げたり、引き受けのため株価に人為的なてこ入れしたりするのが日常茶飯事になっていたので、調査部員もお先棒かつぎに徹する人が多かったのだと思います。
 株式で私の最初のお客になってくれた人に勧めたのは、260円の瀧上工業でした。27年後の今もやはり2部ですから、成長性に欠ける会社だということは確かですが、それにしても、堅実経営で純資産が確か当時でも500円以上あり、1株利益も50円以上あったと記憶します。
 ビギナーズ・ラックで、その株は2〜3ヵ月後に450円で売れました。以後、その顧客が私の提唱する割安株ファンになったことはいうまでもありません。(亡くなるまで長いおつき合いでしたが、うまく行かない時期もあり、何度かお説教を食らいました)
 
 私が書きたかったのは、自分の回顧談ではなく、当時の投資環境が去年から今年にかけての状況に酷似しているということについてです。
 PERの長期的な変遷を見ても、そのことは裏づけできます。
 1970年代後半の市場平均PERは10倍台でした。しかも、大型株に比べ小型株がPERで顕著に割安でした。
 その後80年にかけて小型株のPERが上昇し、80年代初めにはともに20倍前後ながら大型株より小型株のPERのほうが高くなりました。つまり、この時期は小型株への投資が有利だったのです。83年からは両方のPERとも上昇し、20倍をはるかに超え、もつれ合うようにしてバブル期の70倍に至ります。
 90年代の前半は、株価の下落にもかかわらず業績の悪化で、PERは高止まりしていましたが、明確な下落が起こるのは96年からです。小型株のPERはほぼ一貫して低下し、2000年には20倍を割れましたが、二極化により大型というより代表的な銘柄(TOPIX100)のPERは高止まりの傾向が顕著で、2000年には逆に激しく上昇し再び50倍を超え、小型株と明暗を分けました。
 その結果、小型株のPERは、代表株や中型株に比べ著しく割安な状態となり、昨年来の小型株上昇の有力な要因となりました。現在では、代表株もPERが低下し、ともに10倍台であるものの、トレンドとしては小型株のPERが代表株や中型株を追い抜く傾向にあると思われます。

 以上のような概観をベースに、私は小型株有利の時期がまだ続くと考えます。つまり、代表株や中型株など普通の株では、なかなか胸がすくような上げ相場にはめぐり合いにくいと思うのです。
 ただし、だから投資にむかないというわけではありません。むしろ、リスクとリターンのかね合いを考慮すれば、おそらく第一部市場の普通の銘柄(代表株や中型株)はめったにないほどの買いチャンスになっているのではないかと思います。
 たとえば、東レ。ボーイング社との長期契約は年割のインパクトは小さいとしても、各分野で中期的に明るい条件がいろいろ揃って、なぜPER20倍以下の評価なのか、私には分かりません。ニチメン日商についてはいうまでもありません。あまり買いたくはありませんが、NTTドコモの19.2万円だっていくら営業減益とはいえ安いのではないでしょうか。


第292回 ものは考えよう<6/16>

 いま10時20分、日経平均はじり高でなんと270円高に達しました。
 こうなってから書くのでは証文の出し遅れですが、私はここにきて投資家のマインドが好転する環境が揃ってきたと考えていました。
 たとえば、中国です。4月には関連株が絶好調を謳歌したものの、5月には過熱の不安と金融引締めによる鈍化懸念がないまぜになって、全体相場急落の主要なきっかけになりました。商品市況の中でも値動きの荒いことで定評のあるくず鉄相場や海運のバルチック指数なども急落し、投資家の気持は疑心暗鬼の固まりみたいになりました。しかし、冷静に考えれば、いちばん恐ろしいのは、中国経済の過熱→ハードランディングであり、鈍化→ソフトランディングならむしろ大歓迎のはずです。
 その冷静な認識がここにきてコンセンサスになりつつあります。今朝の日経金融のコラム「スクランブル」も珍しく明るいトーンで、中国のソフトランディングが相場によい影響を与える可能性に触れています。

 投資家の心理の変化をもっとも端的に示しているのが、合同製鉄の株価です。
 私が知る限り、4月高値から5月に大幅安した銘柄で再び高値更新したのはこの銘柄だけですが、投資家の心理はおよそ次のような形で振幅しています。
 4月・・・・製品(棒鋼、形鋼)の値段はまだまだ騰がるぞ。
 5月・・・・中国がだめなら、値崩れだ。
 6月・・・・中国の買いが減って原料(くず鉄)が下がったのに、国内の製品価格は下がらないから、ますます儲かるぞ。
 合同製鉄の場合、輸出はほとんどなく、主力の棒鋼は関東地区で東京鉄鋼と共同の販売会社で相当な需給調整力があるので、製品の高止まりは十分に考えられます。
 そのことを5月安値269円の頃にちゃんと認識していれば、あっという間に7割の値上がり益をえられたわけです。この銘柄は私の以前のコア銘柄ということもあり、顧客にはいまだ関心を持っている人が多く、複数の顧客が実際に安値近辺で買い、いま売り場を狙っています。もっとも、私自身は恥ずかしながら弱気というより慎重に傾きすぎ、この投資に大賛成したわけではありません。

 中国の利上げはともかく、若干の経済の鈍化は、むしろ好材料と考えることができるわけです。同じように、米国の利上げだって、米国景気の堅調を前提にし、かつ日本の金利には無関係、公益条件(為替)には若干プラスに作用するのですから、考えてみればそれほどの悪材料ではありません。半導体関連市況のピークアウト予想も、現在程度で頭打ちなら、長い目ではむしろ大歓迎でしょう。(今日の日経夕刊でアドバンテストについて、業績の頭打ち懸念があるということで随分悲観的な見方が述べられていますが、もう少し長い目で見たらどうかという印象を強く抱きました)
 最近明らかになったことで、これは本当に深刻だと思ったのは、出生率の1.3倍割れです。ただし、大問題ではあるものの、現実に深刻化するには、まだ十数年先のことで、現在のデフレ脱却の中期的な趨勢に直接影響を及ぼすものではありません。

 おそらく以上のような見方の変化が、平均株価の堅調に結びついているものと思われます。
 いま午後1時45分。日経平均は228円高と相変らず堅調ですが、まわりの外務員は静かです。平均株価が上がっても、各自が頼りにしている顧客の持ち株が思うように上がらないからです。
 たとえばみずほなど、おおむね4月高値から随分下にある顧客の持ち株が活気づくためには、まだ相当な時間が必要でしょう。
 ただし、見方の変化が徐々に浸透し、現在の指数先物主導+マイナー銘柄局部高の相場から、個別銘柄への投資マインドがもっと広い範囲で発揮される躍動的な相場へ移行する日はかなり近いと考えます。

 マイナー銘柄といえば、二部のCVSベイエリアが薄商いでストップ高です。私はこの銘柄の長期保有を勧めてきましたが、第一部市場に割安な銘柄がごろごろ転がっている現状では、乗換えを勧めてみたい誘惑に駆られます。
 ポピュラーな銘柄でも、たとえば520円の東レなどに堅実な魅力を感じています。


第291回 焦っても仕方がない<6/9>

  月曜にニチメン日商のことを書いたので、今日は休もうかと思いましたが、このところ毎週水曜日に書くことが習慣になっていますので、今回は全体相場について書かせていただきます。

 最近、日経平均が戻ったわりに、自分の持ち株は全然戻らないという嘆きをよく聞きます。特に信用取引を利用するような積極タイプの投資家がそうです。
 私の顧客で見ても、5月の安値時からの日経平均の戻り率に比べて、預かり評価額(信用の評価損益税引後で含む)の回復は、きわめて鈍い状況です。たとえば直近で、昨日までに日経平均は3日の続伸で約500円上げ、4.5%の上昇率ですが、信用の主力顧客のAさんは7.6%、Bさんは3.9%と実質的には相当にひどくアンダーパフォームしています。Aさんのレバレッジは3倍(現物の約2倍の建て玉がある)なので、平均株価の3倍の13.5%以上なければ負け、Bさんのレバレッジは2倍なので、9%以上でなければ負けです。
 
 平均株価に比べて、積極タイプの投資家のパフォーマンスの回復が鈍い理由は明白です。
 積極タイプが好む銘柄は、ディフェンシブの対極にある銘柄で、4月には銀行、不動産など資産関連株や鉄鋼、電子部品など景気敏感株に相当熱くなって、5月に急激に冷え込みました。そうなると、これらの銘柄は当分上値が重く調整必至というのが市場のコンセンサスになってしまいます。しかも、銀行にはUFJ問題や三菱自動車問題など、景気敏感株には米中の利上げ問題や半導体のシリコンサイクルなど反省材料にこと欠かず、好き好んで上値を買おうという投資家が減少するのも当然です。
 私の顧客に銀行株だけに集中投資している人がいますが、このところじれて、毎日まだかまだかと値段を聞く電話があります。私はついつい「仕方がないでしょう。買う人が少なく、上がるのを待っている人(あなたみたいに!)ばっかりなんですから、安値更新しないだけましと思わなくては」と冷たく言い放ってしまいます。

 実際、いまの市場のマインドから見れば、平均株価がしっかりしていて、下値不安がないだけでももうけものと考えます。
 下値が底堅い理由は、主には次の2つです。
 @市場平均PER18倍という業績の裏づけ
 A米国市場が1月高値からすでに調整が長く、かつインテルの中間報告が示すように実態も悪くないことから、調整一巡感が出てきたこと
 下値が堅いのに上がらないのは、目に見えない悪材料があるからではないかと心配になりますが、私はいまのところ悲観していません。
 株価はマインド次第で上下に振れ、そしてマインドはちょっとしたことで180度変わります。私見では、我々が現在抱えている懸念材料は、一時から見れば険悪なものではなく、漠然としている分、急激な変化が考えにくいという始末が悪い面があるものの、ある意味で贅沢な不安であり、見方が徐々に逆転して、マインドが転換してもおかしくないと思われます。

 世界中の投資家の胸中で、現在もっとも直接的な不安感をもたらしているのは、中国の経済動向ですが、活況すぎるから反動が恐ろしいわけで、贅沢ともいえる不安です。ドイツ証券の武者氏は、現在猛烈な勢いで鉄鋼製品を輸入している中国で逆に国内設備が過剰になり、安値輸出をして全世界の大不況に結びつくという悲観論を述べていますが、極端に走り過ぎていると思います。モノの実需と経済が堅く結びついているいまの中国で、ITバブル崩壊のような劇的な需給暗転が短期間に起こる可能性はほとんどなく、中国経済の成長鈍化や中国の鉄鋼輸出国化はもっと時間をかけて劇的ではなくだらだらと進むと考えるほうが妥当でしょう。
 投資家の胸中で、もう一つ漠然とした不安となっているのが米国経済の歯車が逆転することです。しかし、この不安はいまに始まったことではなく、80年代以降ほとんどつねに多くの日本人が米国経済を危惧し、米国の株価を悲観してきましたが、現実は逆でした。今後もだから大丈夫とはいえないものの、簡単には悲観に傾くべきではありません。また、米国景気の通常的な鈍化懸念や、それと裏腹な利上げ懸念などは、中国の経済動向に対する懸念と同じく贅沢な種類の不安と考えます。

 では、マインドの転換はいつどのようにして起こるかですが、この点では多数意見と同じです。すなわち、今月中は徐々に緩やかに、7月にはやや急激に、市場のセンチメントが強気に傾いていくと考えています。
 ただし、4月高値の銘柄が一斉に勢いを取り戻すというような形にはなりにくく、昨年10月には人気株だった野村証券やNECが今年は不人気をかこっているように、単純なリフレインにはならず、業種ではなく、銘柄ごとの明暗が生じると考えます。

 現在2時半で日経平均は49円安。暇な一日ですが、川崎汽船が16円高の530円をつけてきて気をよくしています。武者氏の論理では近い将来に船腹の大過剰が起こるはずで、危険きわまりないということになりましょうが、そのリスクをある程度の確率で考慮しても、当面(来期まで含む)において確実な高収益に比べて株価はあまりにも割安だと考えています。

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