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第310回 投資スタイル考<10/13>

 投資家が株を買うスタイルは、人それぞれです。異性への好みと同じく、様々な銘柄を欲しいと思い、投資を実行します。そして異性の場合と同じく、一時の誘惑に負けて軽率な選択をし、あとで死にたいほど悔やむこともあります。
 思い浮かぶところで、失敗しやすい投資姿勢は、次の通りです。

 @衝動買い(上がりそう、もうかりそう、おいしそう)
 A切迫買い(一発当てなきゃ損が埋まらない)
 B成金趣味(ステータス気分)
 C小遣い銭稼ぎ(ほんの軽い気持)
 Dうぬぼれ(自分は株の天才か)

 上記の投資姿勢が失敗につながりやすい点は、@とAでは、状況にはまり込みすぎて感情と判断との区別ができないこと、BとCでは、逆に状況に対する真剣さが足りず、リスクに対する認識が十分でないということです。Dは問題外で、もっとも危険です。
 株式投資を長く続け、悔いのない結果を残すためには、上記@〜Dに自分が陥る(分かっていても陥るし、何度失敗しても陥る!)のをつねに戒め、上記と対極にある投資姿勢を目指さなければなりません。そして、上記のアンチテーゼは、まず第1に、自分の感情に左右されずに状況を判断すること、第2に、リスクとリターンを冷静に天秤にかけたうえで決断すること、少なくともその2つの要件を含んでいると私は考えます。
 本屋の店頭には、こうすれば株でもうかるとか、自分はこうやって○○億円を稼いだとか、自信満々のノウハウ本が並んでいますが、ノウハウ以前に、投資家自身の精神面の自己管理が大切な問題になっているのではないでしょうか。

 沈着冷静な投資姿勢が確立されて、はじめて投資スタイルを云々することができます。投資スタイルは、本質的に次の3つの形に集約できるはずです。
 @ディーリング(価格のブレや勢いを利用したサヤ取り)
 A裁定取引(割高割安の訂正波動によるサヤ取り)
 B絶対的投資
 私が顧客に勧めている取引の多くはAです。裁定取引というと非常に特殊なようですが、ある銘柄を割安と判断して買う行為は、株価を裁定しているのであり、売り買いの抱き合わせがなくても裁定取引といって差し支えないでしょう。
 もっとも、私が割安だから○○円目標で買えると勧めても、顧客のほうでは、高くなったら売りたがり、安くなったらまた買い戻そうとしますから、現実の売買取引において@とAの区別は意外とあいまいです。またAとBの区別も実はあいまいです。例えば絶対的な投資価値に着目したM&Aであっても、転売や再上場して売却益を得た場合、広義の裁定取引をしたことになるからです。

 最初に述べたように、投資スタイルは人それぞれであってよいと思いますが、私見では、日本の投資家のスタイルはあまりにも上記の@、すなわちディーリングに偏りすぎており、本来、投資の原点であるべきBのスタイルが手薄になっています。
 かつて「株を買うな、時を買え」をキャッチコピーにした証券会社があったように、株は持つものではなく、売るものと考えている投資家によって市場が支配されています。まれに株を買っても売らない投資家もいますが、有名一流株を買ってひたすら持ち続ければ必ずもうかるだろうという素朴な発想の人がほとんどで、米国市場のバフェット氏のように強い信念を持っている人は皆無といってよく、市場に与える影響は限定的です。
 投資の原点は、あくまで株主としての価値、すなわち持っていることの価値であるべきで、売り買いによって生み出される価値は、派生的なものであるはずです。
 この点、日本では、土地さえもが使用価値(賃貸価値)を遊離して売買価値だけで高騰したことが如実に示す通り、派生的なものが一人歩きする傾向が濃厚です。

 ネット取引により個人の短期取引が活発化し、市場出来高は増大したとはいえ、必ずしも市場の厚みが増し、流動性が高まったかどうか疑問です。例えば、発行株式数2千万株の木村化工機が4日には突然2億株の超大商いを演じ、その後急減しましたが、これを流動性の増加と喜ぶべきでしょうか。
 近年、企業再生にからみ様々なファンドが活躍するようになりました。配当利回りや株主優待に着目する個人投資家も増加しています。これらの動きは少しずつですが、日本の株式市場に上記Bの投資スタイルとして定着し、株主価値(絶対的な投資価値)の視点から日々の株価形成にメリハリをつけていくことになると期待されます。

 ざっと以上のような展望のもと、私自身は売買目的で株価形成に携わるものの、株主価値から遊離した売買にかかわることは極力避けたいと考える次第です。(株主価値から遊離した売買の例は枚挙に暇がありませんが、もっとも歴然としているのが今回も日本駐車場2353で繰り返された大幅分割銘柄の株券交付前の異常高と急落です)
 今回は、実は双日ホールデンングスをなぜ勧めるかということまで書きたかったのですが、次の機会に譲ります。


第309回 PER考<10/6>

 原油先物が51ドル台に上伸ですが、株価は日米ともに抵抗力が出てきました。
 少なくとも、前回述べたような原油高→景気悪化→デフレという最悪シナリオへの恐怖心は修正されつつあるようです。
 日経平均は9連続安のあと4連続高。強気と弱気ががっぷり四つに組んでの平均株価の膠着状態が、いずれかの方向に変化する兆しが出てきたとも考えられます。
 強気派の拠り所は、なんといっても実体経済の好調であり、企業業績の水準の高さに株価が十分に反応せず、PERが低下していることです。
 それに対して弱気派の拠り所は、景気と企業業績がピークアウトすれば、業績が悪化し、PERは割高水準に逆戻りするだろうということです。
 今回は、投資判断の原点ともいうべきPERについて考えてみたいと思います。

 PERは、ロシアの貴族が田畑を農奴こみで売買する際の目安に使ったのが起源という説もありますが、ロシアの田畑に限らず、自分の出す資金が何年分の収益で回収できるかという考え方は、古今東西を問わず投資家の実感から自然に出てきておかしくありません。たえば友人から、商売をするのに年2割の配当を出すから100万円出資してくれと頼まれた場合、20%の利回りだから有利か不利かと考えるより、まずゼロになる最悪事態を考え、次にうまくいけば何年で元本が回収でき、損がなくなるだろうかというふうに考えるのが普通の発想ではないでしょうか。
 友人への出資はさておき、上場株式に対してどのくらいのPERなら投資魅力を感じるかは、投資家それぞれの問題です。
 私は投資魅力のポイントを大ざっぱに、循環株14倍、安定株20倍、中成長株30倍と考えています。
 ちなみに、逆数の益回りで言えば、それぞれ約7%、5%、3%であり、長期金利を5%程度と考えれば、循環株(市況関連株など)は業績が揺れ動くリスクに対してプレミアムがほしく、安定株(ディフェンシブなど)はリスクプレミアムと経済成長に伴う成長期待がちょうど釣り合い、成長株は債券より利回りが低くてもよいというふうに考えるわけです。
 本来、投資家が要求するPERは金利に影響を受け、金利が低ければ市場平均PERが上昇するはずですが、90年代以降の日本では、金利の低下はデフレ懸念の強まりを意味するため株価が下落し、PERも低下しました。おそらく日本経済が完全に健康体になるまでは、PERと金利の本来の関係が正常に機能しないので、上に述べたように長期金利は5%くらいであると考えて、銘柄ごとに自分はどのくらいのPERを望むかを考えるべきではないかと思います。

 現在の東証第一部の平均PERは19倍台です。日経金融新聞によれば、10月1日現在の業種別予想PERは、ディフェンシブで食品22.4倍、医薬品19.6倍、景気敏感で電機21.4倍、精密17.4倍、機械17.0倍、小売21.5倍など、主要業種はおおむね全平均に対して±2〜3倍前後の水準にあります。
 その中で、低PERが目立つのは、鉄鋼12.2倍、海運10.3倍、通信13.0倍の3業種です。(数字だけ見れば、繊維が6.9倍と特別に低くなっていますが、これはおそらくカネボウの債務免除益による異常値であり、商社の32.2倍、銀行の29.9倍もUFJの不良債権償却に伴う異常値であると見られます)
 景気敏感株のPERについては、日本経済の構造的な趨勢と今後の景況をどう見るかによって見解が大きく分かれるのは当然ですが、私見では、本来30倍であっておかしくない電機・精密・機械の成長銘柄と、本来14倍であっておかしくない鉄鋼・海運に割安感を感じます。特に鉄鋼・海運については、単なる一時的な市況変化といえない収益構造の変化を伴っており、PERの上方修正の余地があると考えます。
 本来安定株として20倍でもおかしくない通信については、価格競争の本格化で低PERもやむをえない側面があるとはいえ、かつてのNTTやNTTドコモの「成長性」への神がかり的な人気やネットバブルでも異常人気を思うと、隔世の感があります。たぶん、そのうちそこそこには水準訂正してくるだろうと考えています。

 PERの上から2銘柄だけ注目株を挙げると、東京鉄鋼(5445)440円とJUKI(6440)355円です。
 東京鉄鋼は、先月に中間期だけの増額修正を発表しており、今期の1株利益は税負担小さいとはいえ60円台が見込めます。注目すべきは、この数年の収益構造の変化が鉄鋼業の中でも際立っており、収益の向上の理由がむしろ市況以外にあることです。主力のネジテッコンの需要増は今後も持続することが確実で、PER水準の見直し余地が大きい考えます。
 JUKIは財務内容が悪く、8月に私募CBを発行していることが割引要因ですが、1株利益40円台は魅力的で、全体相場のマインドが楽観寄りに転換すれば、PERの水準訂正余地が大きいと考えます。


第308回 臨時(双日の優先株について)<9/30>

 双日が発行する優先株とCBの発行条件が決まり、前々回(306回)に書いた「優先株配当支払い後の1株利益」が予想とは大きく違うものになると考えられますので、ご報告します。
 優先株やCBなどエクイティーファイナンスの発行条件は、通常は普通株への転換条件と配当条件・利率がトレード・オフします。
 双日の場合、2回目でしかも多額の優先株の発行なので、普通株への転換→希薄化という事態を避けて現金償還の可能性を高めるためには、今回分は期限を相当に長くするする必要があり、したがって配当条件はかなり高めのものにならざるをえないだろうと私は考えておりました。
 しかし、昨日発表された条件は、UFJが引き受ける3300億円について、予想とまったく違い、普通株の株主にとってきわめて有利なものでした。
 まず、UFJ向けのうち約2000億円は、普通株に転換できるのは20年後からで、転換価格はその時点の時価で決まり、しかも最終期限がありません。希薄化懸念はきわめて小さいといえますが、それに対して、配当の条件は、普通株に年間50円以上の配当を行うときに、普通株の配当利回りに対して20%増しの利回りになるような金額を支払うことです。配当面では、普通株が45円配当を実施しても無配当でよいわけですから、優先株というより実質的には劣後株であるともいえ、普通株の株主にとっては破格の好条件による債務の株式化です。
 次に、UFJ向けの残り約1300億円は、普通株に転換できるのは15年後からで、転換価格はやはりその時点で決まり、最終期限がないのも上記2000億円と同じです。配当については、普通株の配当に際して、当初はTIBOR(銀行間の金利水準)+0.75%で、5年ごとに0.25%ずつアップし、上限+1.75%という条件で、上記2000億円ほどではないにしても、かなり有利な条件と考えられます。
 それ以外の優先株は300億円で、みずほ、三菱東京向けの200億円は配当条件がTIBOR+1.75、5年ごとに0.25%ずつアップし、上限+2.75%というUFJ向けよりは不利ですが妥当な条件、UBS向けの100億円は無配当で、その代わり転換価格の下方修正条項付きとなっています。
 これらの条件により、06年度に50円未満の復配を果たした場合の優先株への配当金額を計算すると、TIBORが現状より0.3%上昇していると仮定しても、64億円となり、前回予想よりも約100億円減少します。
 したがって、306回で掲げた06年度の優先株配当支払い後の1株利益予想を、93〜98円から136円に上方修正させていただきます。


第307回 ぐっと待つ<9/29>

 日経平均は昨日で8日連続安、今日も弱含んでいます。みずほがかろうじて12日連続安を免れたほどですから、現在の地合いの悪さは目を覆いたくなるほどです。私の顧客のパフォーマンスもみごと平均株価に連動し、8月の最悪時に近づきました。一部の顧客では4月の高値時の信用期日が頭の痛い問題となってきました。(NECシステムを除けば、私の勧めた銘柄ではありませんが)
 当分、どうせ駄目だよと市場参加者のほぼ全員が思っています。だから、前回述べたように「宵越しの株は持たない」で超短期売買に徹する人がいる一方、「まともな株は頭を使うだけ損」とばかり純粋仕手株に人気が集中し、ニチモウなどは半日おきにストップ高とストップ安を繰り返す乱痴気騒ぎです。中には超短期売買で確実に儲かっている天才的な人や、仕手株でたまたま面白いように儲かっている人もいるはずで、その人たちから見れば馬鹿か怠慢だと思えるでしょうが、私はどちらの立場も無縁です。おそらく一生無縁のままでしょう。
 
 今日の新聞で、村上ファンドが日本フェルトの大株主に登場したことが報じられています。主に転換社債で玉集めをしたとのことですから、さすがの手口です。
 この記事を見て、最近の自分の中途半端さについて考えさせられました。
 村上氏は、企業資産の絶対価値に着目し、株価が安ければそれこそ全部でも買いたいという投資スタンスですから、自分の買った株が下がれば下がるほど大歓迎のはずです。
 それに対して、私は、中期大幅高狙いを標榜して営業していながら、株価が数か月低迷しただけで弱音を吐きたくなっています。
 売り買いの手数料を稼ぐ外務員という立場の制約はあるにしても、ファンダメンタル重視の中長期的な資産運用を看板に掲げている以上、現在のように売り買いにやる気がなくなるような時こそ、ムードに流されず、向上心を出して日々の仕事に立ち向かわなければならないはずです。
 具体的には、ひとりひとりの顧客のポジションを見直して(今のような相場ではため息が出ますが)、改善の余地はないか冷静に検討すること、そして顧客となんらかの形で対話すること、その2つがまず出発点です。

 相場観としては、ここにきて原油高が簡単には反転しないとだれもが思い始めたことに注目したいと考えます。その理由は、原油価格50ドルが少なくともある程度は織り込まれたはずですが、それに対して、急反落は期待薄としても、次の点で抜本的に株式市場の捉え方が変化する可能性があることです。

 市場は現在、「原油高→景気悪化→債券高・株安」という図式に支配されています。一見もっともな図式ですが、日本ではあまりにも「債券高・株安」がショッキングに考えられ過ぎる傾向があります。通常の経済では、債券高はそれ自体が株価上昇要因である他に、将来の景気に対してプラス要因です。したがって「債券高・株安→株価反騰→景気好転・・・・」という図式の続きが暗黙のうちに予定されています。
 それに対して、現在の日本では、「債券高・株安」をデフレ再燃とほとんど同義に感じてしまう人が大半です。すなわち、原油高によるコスト上昇を企業が価格に転嫁できず、企業業績の悪化→支払い賃金の低下→個人消費の低迷・・・・という悪連鎖にはまっていく姿がぱっと思い浮かんでしまうわけです。
 しかし、これは過去十数年の手ひどい体験に影響された発想であり、むしろその実体験を悲観的に誇張した考え方です。鉄鋼業界はすでに原料高をむしろ大増益のバネにしています。海運会社も原油高は減益要因にならないと明言しています。では風上での値上げを風下産業がいつまでも受け止めておけるでしょうか。企業の設備過剰と過当競争はすでに一部業界を除き解消されており、原油高が定着すれば最終的には必ず消費者物価の上昇につながるはずです。
 原油高は一時的な景気悪化要因にはなるかもしれません。しかし、多くの人が思い浮かべるデフレ再燃の要因にはならず、経済縮小の悪連鎖も資産価格の下落による不良債権の増加も起こらないとすれば、それほど青くなって心配するようなことでしょうか。
 景気の波は仕方がありません。しかし、日本経済が不良債権の処理とデフレに苦しんだ過去とは違うトレンドにあるとすれば、景気悪化が即デフレ再燃に直結するという悲観にはまり込んでいる現在の多数意見は訂正される余地が大きいと考えます。

 日本経済への漠然とした悲観ムードが徐々に変化するときを、腹にぐっと力を入れて待ちたいと考えています。


第306回 何を信じるべきか<9/22>

 日本人投資家はもっと挑戦の気概を持たなければならないと言い続けている私ですが、当面の相場については、正直なところ自信が持てません。

 「経済の回復はまだ本物じゃないんだから、株を持ったきりじゃ儲かるわけがない。上がったらすぐに売り、下がったらまた買い戻して少しずつ稼がなくちゃあ」
 おそらく目下の市場で株の売買に参加している人(個人投資家、営業マン、ディーラー、ファンドマネージャーなど)のほぼ全員がそう考えています。
 私の顧客は頻繁に売買するより持ったきりを好む人が多いのですが、それでも最近、「上がったらすぐ売らなければ儲からないね」と言いだしています。
 つまり、株をじっと持っているだけではロスになると思えるほど、日本経済の将来を見限り、先行きに期待や感動をほとんど持たず、今は今だけで考えればよいという覚めた意識の人が増加しているのです。私見では、8月以降、多くの投資家の内心は重く澱んでいるというより、ほとんど風化しかかっており、デフレ・スパイラルの猛威に脅えていた頃のほうがまだしも生き生きとしていたと思えます。
 多数派はおうおうにして間違います。しかし、現在の市場にはびこっている期待の風化や無感動は相場の大敵であり、それらの訂正には時間を要します。かつてアメリカで70年代の長い経済停滞のあとに生じた投資家の虚無主義化「株の死」は数年にわたる大病でした。
 歴史が証明する通り、投資家よりも実体経済そのもののほうが頑健です。私は、日本経済の歴史的反転に対して市場の反応はネガティブに過ぎ、今後実体経済に後押しされる形で日本株は大幅に水準訂正だろうという判断そのものには自信があります。しかし、現在の投資家の状況を考えた場合、当面の相場動向についてはそれほど強気になれません。年内の数か月は期待より懐疑が優先し、天井の低い相場展開になる可能性が高いかもしれないと、ごく人並みの思考にはまり込んでいる次第です。

 市場全体に閉塞感が強まるにつれ、活躍する銘柄の質はますます荒れています。ニチモウはともかくなぜカネボウが人気化するのか、私には到底理解できません。そのような中で、日々の投資行動の指針として確信していることは、@少なくとも長期的に見て、日本株の今の水準が高すぎるということはないはず、A割安の銘柄に投資すれば報われる確率が高く、そのような投資姿勢を貫けば長い目では必ず報われるはず、という2点です。

 ここでいう「割安」は、自分自身の投資判断として割安か割高かという、いわば絶対的な判断であり、PERなどの株価尺度で銘柄と銘柄を比較してどちらが割安かという相対的な判断ではありません。
 したがって、相場局面によっては、割安株がたくさんあってもよく、また逆に全然なくてもよいことになります。

 では、どのようにして割安か割高かという自分自身の判断をするか、これが問題です。
 まず、判断に数字的な裏付けが必要なことはいうまでもありません。
 例えば、プロ野球に新規投資するとして、費用と収入の見積もり、そして赤字額と広告効果の値踏みや瀬踏みはぜひ必要で、ただ勢いだけで球団経営を始めてみるという人がいたら、経営者失格です。(さすがに、ライブドア、楽天、シダックスの社長は、在来球団のサラリーマン社長より判断の姿勢がしっかりしているようです)
 ただし、数字だけで割安か割高かの判断が決まるわけではありません。
 例えば、イチローと契約するとして、3億円の年俸なら他の有名選手との比較から超割安といえるでしょうが、契約すれば必ず得するものでもありません。イチローといえども機械ではないのですから、突然の怪我や病気や能力低下を見込む必要があります。人気の活用の仕方もありますので、経営者によっては10億円でも割安と判断する一方、別の経営者は3億円でも割高と判断することは起こりえましょう。
 ましてや実績のない無名選手をどう評価するかは、数字の分析より、直感や類推や発想の飛躍など、イマジネーションの働きがより重要になりましょう。
 投資として割高か割安かの判断は、@リスクとリターンの数字的な分析、Aイマジネーション、B資金の性質と資金効率と金利水準との瀬踏み、などの総合によってはじめて可能となります。

 目下の私が、双日株にもっとも割安感を感じていることは、前回述べた通りです。それに対していろいろご意見をいただきましたので、最後に双日について補足させていただきます。
 まず、双日が割安ではないという反論をくださった方の論拠は、大きくわけて次の3つです。
 1.優先株によって大幅な希薄化の可能性があるので、PER割安とはいえない。
 2.まだ損失が隠れているかもしれない。
 3.商社が長い目で伸びる業種とは思えず、業種内でも営業力が大手に劣る。
 このうち、2と3は、私見では数字的な分析以前の問題と考えます。
 例えば、またプロ野球経営の比喩で申し訳ありませんが、やや歳をくっていて成績は凡庸かつ肩の故障が直ったばかりのピッチャーがいるとします。松坂に比べて投手としての魅力が劣るのは明白ですが、だから投資価値がないということにはなりません。魅力があっても代価が高ければ投資価値はなく、魅力で劣っても非常に安ければ投資価値があるのはいうまでもありません。このことは、この数年で外資系の再生ファンドやはげたかファンドにまざまざと見せつけられたことです。
 双日の場合、もともとの収益力はそこそこあり、信用力の面で株価が下落していたのですから、将来性や営業力などの魅力を問題にするのはもう少し株価が回復してからで遅くないはずです。ましてや、肩を悪くしたことがあるから、また悪くなる(追加損失が出る)と心配する発想は、一見王道を歩んでいるようで、むしろ高値つかみの危険も多く、人の行く裏道で割安株を発見することからは遠い発想といわなければなりません。
 したがって、現在の株価水準で、双日が割安かどうかを判断する場合の大きな問題点は、上記の1、優先株による希薄化をどう考えるかにほぼ限定されると思います。
 双日の場合、10月に予定通り増資が実施されれば、私の計算では前回分と合わせて最大9倍くらいの発行株数の増加=持分の希薄化が見込まれます。
 もしその通り希薄化すれば、現状でいくら1株利益100円台の収益力があると言っても、10円台に薄まってしまうわけです。それを基準に考えるなら、400円台の株価はPERで割高になってしまいます。
 しかし、優先株を2回発行したオリコの場合と同じく、今回分は前回分に劣後する意味から、優先株の普通株への転換期限は30年以上先になると見られ、株としての側面よりむしろ実質的な負債という側面が強まるものと見られます。
 オリコの前期の決算短信では、1株利益44.1円と表示された次に、潜在株式調整後8.56円と明記されています。そして今期予想は、最終微増益にかかわらず1株利益31円と表示されています。1株利益が低下するのは、今期復配を予定するため、優先株への配当金を支払い後で算出するためです。私見では、オリコの今後の株価形成は、希薄化懸念を若干意識しつつ、主には優先株配当支払い後の1株利益を強く意識して形成されることになると考えます。
 双日は、順調に行けば、06年5月に発表する決算(来期分)で、普通・優先株双方への復配を予定した予想1株利益を発表します。優先株の支払い配当は条件が未定ですが、2.5%平均だとすれば156億円、2.7%で168億円なので、実現確度が高いと見られる今回計画の税引純益390億円から予想される優先株配当支払い後の1株利益は(CB転換後)は93〜98円です。
 2年後の1株利益90円台を現時点でどのくらいに評価するかは投資家それぞれの問題です。私は、現在はPER割安の銘柄がごろごろ転がっているとはいえ、諸条件から割安を確信できる銘柄の筆頭に双日を掲げる次第です。


第305回 思い入れと気概<9/15>

 前回、「今夜あたり米国の半導体株に底打ちムードが出てもおかしくありません。それに加えて、GDPが期待通り上方修正されれば、久々に本格的に期待してもよい局面に転じる可能性があると考えています」と書きましたが、第1条件の半導体株の底打ちについてはドンピシャリでした。しかし、第2条件のGDPは大はずれで、このところ盛り返しつつあった景況への楽観的な見方を一挙に吹き飛ばす結果となりました。
 今週は、半導体関連株の上昇で日経平均は堅調に推移しているものの、銀行など内需関連株は景況への警戒感から冴えません。増額修正の出た鉄鋼株も上値の重い展開で、多くの投資家のマインドはむしろ暗いといわなければなりません。
 先週書いたように、多くの投資家は現在懐疑の中にどっぷりつかっています。いや、懐疑するならまだしも、「がんばってもどうせだめ」というデフレ病が再発しつつあるとさえいえます。現に、今朝の日経金融新聞は、<「脱デフレ」外国人は断念?――崩れる一段高の条件>という恐ろしい表題で、「デフレ再燃もやむなし」という状況になったことから「年内に日経平均が1万円を割るような調整も」というような弱気意見を載せています。

 私は不思議でなりません。なぜ景況のちょっとした揺れに一喜一憂する必要があるのでしょうか。なぜ景気がちょっと湿ったくらいで、「デフレ再燃もやむなし」というあきらめに陥ってしまうのでしょうか。
 銀行の不良債権の問題にしても、鉄鋼業に代表される需給構造の抜本的な変化にしろ、企業経営の効率化・透明化にしろ、インターネット産業のメジャー化(プロ野球球団を持つほど?)にしろ、昨年から急速に目に見えてきた現象は、日本経済という船が十年規模あるいは数十年規模の転回を遂げつつあることを示唆しています。不良債権問題ひとつだけとっても、経済を萎縮させてきた巨大な濃霧が十数年ぶり薄らぎつつあるのですから、歴史的ともいうべき転機に我々は居合わせているはずです。
 戦後の日本経済の奇跡的成長を一つの交響曲とすれば、82年からの世界株高で終楽章に入り、87年からの日本株高でフィナーレを迎え、暗転しました。そして十数年の幕間(深刻な調整)を挟んで、また一つの曲が始まったのです。
 今度の曲は、交響曲ほど雄大ではないかもしれませんが、少なくとも1年やそこらで元の黙阿弥になってしまうようなちんけな曲目ではないはずです。
 新しい経済のトレンドは、まだ第1楽章が始まったばかりであり、この十数年の経験則が簡単にはあてはまらないということを忘れるべきでありません。そのトレンドがだれの目にも明らかになるのはずっと先のことでしょうが、投資の成功のためにはそのトレンドを推定し、それに合致した戦略を持つことが何より優先されなければなりません。そのようなとき、景気の波にこだわることは小事といえます。景気の波は経済の成長につきものとはいえ、大きな経済波動の中ではむしろ無視したほうがよい場合も多々あります。例えば90年代の米国の経済と株式の波動の中では、景気の波の小さな揺れを気にしすぎた投資家は、数十倍の大魚を逃す結果となりました。

 今後の日本経済がどのようなトレンドを描くのか、株価はその姿を先見するはずで、この秋の株価動向は特に注目されます。米国市場の動向から、日本の株価にとって1つの障害だった半導体への極端な弱気は取り払われました。にもかかわらず、国内の見送りムード(石炭株などへの投機人気と裏腹なしらけムード)が続くなら、実体経済全般にも活気や躍動感が蘇る日は遠いと考えざるをえません。社会全体にどうせだめという因循なムードが漂い、スポーツ分野をさえ含めて楽天やライブドアなど一部の企業家の積極性ばかりが目立つ状況が続くかもしれません。
 日本経済のために、10月にかけての株価上昇を熱望する次第です。

 半導体株の上昇で8月よりはやる気になっている私ですが、当面の相場について上記のような思い入れはあるものの、相場観としては確信が持てません。
 現在、もっとも成算を持てるのは、またかと思われるかもしれませんが、双日です。

 双日は10月の増資が実行されれば、信用面の不安はまったくなくなり、したがって下値不安もほぼなくなると考えます。問題は上値で、優先株の残高が前回分も合わせると6300億円規模になることが上値圧迫材料になります。(UBS向けのCBの転換によって2000万株強の普通株の増加が予想されることを不安視する意見もありますが、株価を抜本的に左右する問題ではありません)
 優先株については発行条件が不明であるとはいえ、オリコのケースと諸条件がほぼ似ており、PERの割引要因にはなるものの、致命的な割引要因にはならないと考えられます。(オリコの場合は、優先株配当支払い前PER6.5倍、支払い後PER9.4倍)
 優先株の問題を除けば、増資実施後の双日は、下表の通り、丸紅や伊藤忠よりはるかに財務内容がよくなり、PERの水準訂正は必至と考えます。

今期末(予) CB転換後(予) 丸紅 伊藤忠
@発行済み株式数 2.2億株 2.4億株 14.9億株 15.8億株
A9/14終値 447円 447円 275円 472円
B時価総額 903億円 1073億円 4098億円 7458億円
C売上高 5兆円 5兆円 7.6兆円 9.2兆円
D経常利益 500億円 500億円 600億円 1100億円
E修正1株利益 136円 115円 22円 38円
F修正PER 3.3倍 3.9倍 12.4倍 12.4倍
G株主資本比率 11.9% 12.3% 9.2% 9.4%
Hネット有利子負債 1.1兆円 1.1兆円 2.6兆円 2.6兆円
IネットDER 3.8倍 3.7倍 6.7倍 6.2倍

  • 注1) 上記@〜Bは株式の基礎的数値、C〜Fは収益指標、G〜Iは財務指標。収益指標と財務指標から、Bの時価総額で双日の水準訂正余地が大きいと判断。
  • 注2) 収益指標は今期予想。財務指標は、双日は今期末予想、丸紅・伊藤忠は前期実績。
  • 注3) ネットDERは、ネット有利子負債(有利子負債−現預金)の株主資本に対する倍率。低いほうが安全性高く、大手3社平均は3.7倍。
  • 注4) 修正1株利益は経常利益から税率45%として算出した実質最終利益による1株利益。なお、CB転換後の数値はUBSへのCBが450円程度の転換価格で全額転換されたものとして算出。


第304回 懐疑と期待<9/9>

 日経ネットの「時説往来」で、野村の海津氏とドイツ証券の武者氏が強気と弱気に分かれ、すでに長く論争を続けています。内容はなかなか面白く、昨日も「日本先頭論―後追う米国の谷はより深く」という表題で武者氏の意見が更新されていますが、実に見事なほど腰の入った弱気意見です。
 90年代以降の日本経済の困難や苦しみは、米欧に先駆しているもので、米国が苦しむ時代はこれから始まるのであり、谷は日本よりも深く、したがって米国の株価は今後1年大きく下落せざるをえないと主張するものです。
 折りしも、日米ともに景気復調説が台頭してきている中、武者氏の意見はそれらの楽観論と真っ向からぶつかるもので、堂々としていることは大変よいことだと思います。
 ただし、賛成するわけではありません。

 武者氏の最近の論は、まず最初に弱気ありきで、弱気のための弱気論という感じが濃厚に感じられます。
 例えば前回はPERについて一見学術的な考察が述べられていますが、言わんとするところは、PERが低下しているのは景気後退局面だからであり、景気はこれからますます悪くなるのだから株価は下がるはずだということです。
 景気後退局面では確かにPERが低下することが多いのでしょうが、PERが低下しているから景気後退だとは決めつけられないはずです。同氏の論は、そこらへんの柔軟性に欠けており、理論というより決めつけに近い傾向があると私には感じられました。
 今回の「日本先頭論」もそうです。株価のバブルは確かに日本が10年先行した形となっています。しかし、だからといって、「日本が世界経済のトレンドの最先端を走っている」という仮説に突き進んでしまうのはどうかと思われます。発想は斬新なようでも、内容はむしろ陳腐で古典的な米国経済への懐疑にすぎません。最近の同氏に、ややドン・キホーテに似たものを感じるのは私だけでしょうか?
 
 武者氏は、日本経済は「謙虚な期待」によって形成されているが、米国経済は「過剰な期待」によって形成されており、「依然として経済活力に対する自信(過信)と、投資家のリターンに対する強欲さが健在である」が、「それが裏切られたとき、大きなショックを株価に与えるだろう」としています。

 米国経済に対しては、つねに懐疑がつきまとってきました。あまりにも巨大で活発な経済であり、あまりにも消費性向が高く、あまりにも大きな経常赤字が続いているからです。
 最近は少なくなりましたが、以前はドルが大暴落すると考える日本人がかなり多く存在しました。90年代に米国が上昇し始めたとき、たしかNYダウ3000ドル台くらいから、米国株が大暴落すると考える人がやはり相当いました。私自身、米国経済がある日突然崩落してしまうのではないかという理屈抜きの不安に襲われることが、以前も今もたまにあります。
 武者氏の論は、そのような日本人投資家の「素人判断」や懐疑に迎合するものであり、発想は斬新なようでも、内容は陳腐で古典的なものにすぎないと考える次第です。

 ところで、昨日今日忙しくしており、ここまで書いたところで、木曜日の相場も終わってしまいました。2時の機械受注統計の発表をきっかけに下げ、日経平均は108円安です。
 昨日新計画を発表した双日をはじめ、いろいろな株が下げ、がっかりの終値ですが、それほどは落胆していません。そもそも、問題は米国の半導体株がいつ下げ止まるかであり、昨日まで毎日半導体株指数が安値更新をしている現状では、日本の内需株といえども、まともな銘柄が大きく上値を追えるはずがないと考えています。米国市場における半導体株の不調は、投資家の現実的な懐疑の結果であり、懐疑が期待感を上回る現状では、日本株だって本格的に上昇できるはずがない、したがって、いかに平均株価が堅調に見えても日々の相場に力が入らないことは、8月半ば以降ずっと書いてきましたが、それはいまもあまり変わりません。
 ただし、前回書いたように、9月は正念場だと思います。日柄的には、今夜あたり米国の半導体株に底打ちムードが出てもおかしくありません。それに加えて、GDPが期待通り上方修正されれば、私は久々に本格的に期待してもよい局面に転じる可能性があると考えています。

 株式投資は期待感です。期待を持ちたくなければ、債券や預貯金に資金を振り向ければよいとはいえ、そのような人が増えれば、経済が活性化するはずがありません。武者氏は、日本経済は「謙虚な期待」の上に立っていると評価していますが、私は前回述べたように、日本人は投資に対して挑戦の気概をもっと持つべきと考えます。
 日本経済と企業の成長に対する本格的な期待感と反対の懐疑がぶつかり合い、主力株の株価が躍動感を持って振幅する相場局面の到来を願ってやみません。


第303回 9月は正念場<9/1>

 このところ、我々にとってはやることがないと愚痴めいたことを書いていましたが、なんとその間にTOPIXが5年ぶりに10連騰したというのですから、驚くほかありません。平均株価で見れば、8月16日できれいに底が入った形になっており、9月高に期待を抱かせます。
 私はチャート分析を重視することは好みません。特に天底の日柄が○○間隔で、だから×月×日が転換日だなんていう予言者みたいなご託宣を並べる人には憎しみさえいだきます。しかし、それにもかかわらず今回に限っては、平均株価が8月底入れの形となったことで、昨年来の3か月ごとの日柄リズムが繰り返され、9月から10月にかけて新高値挑戦の局面が来ることを熱望してしまいます。
 我々のほとんど全員が株高を期待するのはいつものこととはいえ、今回は日本経済にとって特に重要な分岐点にさしかかっていると痛感するからです。
 (昨年来、平均株価の目先天井は7、10、1、4、7月であり、目先底はその翌月の8、11、2、5,8月のそれぞれ月半ばです)

 繰り返しになりますが、我々証券営業マン、そして我々の顧客である普通の個人投資家にとって、現在はマインド的に最低の状況です。その根源にあるのが、「買い尽くしたのではないか」という懸念であり、もっと端的にいえば、自分が敵陣(高値)に取り残されたまま、世の中が元の黙阿弥に戻ってしまうのではないかという恐怖です。そして私は、9月の相場が振るわず、多くの投資家がやっぱり元の黙阿弥じゃないかという認識に至れば、昨年来せっかく回復の途上にあった日本人の投資家精神が再び萎縮の軌道に入ると危惧します。

 バブル崩壊とそれに続く長い経済停滞は、多くの日本人の心を徹底的にいたぶり、前に進むより、つねに逃げ道を用意することを優先する考え方の人を増加させました。
 その考え方にもっとも適合するのが、売りも買いもその日のうちに手締まってしまうデイ・トレードです。また、機関投資家の機械的なインデックス重視の投資手法や、生保など担当者の言い訳を優先しているとしか思えないヘッジ重視の取引手法も、その延長にあると思われます。日本経済全体はもとより、個々の企業の成長にも大きな期待や思い入れを持たず、リスク回避を第一にしてクールに立ち回る投資家たちが、国内では大きな勢力に育ちました。
 それに対して、我々の顧客は、一般にまだ夢を捨てておらず、期待感を重視した投資をしているわけですが、@日本経済の大回転、A企業収益の抜本的な向上、B問題企業の劇的な再生と不良債権問題の終焉などの期待感に対して、昨年来今年4月までの相場展開と実体経済の推移は、まさにこのうえなく本懐を遂げさせてくれるものでした。

 ところが、4月末以降、中国と米国を中心に先行きへの懸念が急速に強まり、市場人気(期待感)が高かった銘柄グループほど強烈な下げに見舞われました。
 わずか1か月の間に、上記Aでいえば、例えば東京製鉄が4月高値2030円から1254円まで38%、上記Bでいえば、UFJは794千円から481千円まで39%急落しました。
 日本経済の回復について、内心半信半疑を抜けきれないまま、おっかなびっくりで徐々に投資金額を増やしつつあった投資家にとって、この急落はショックでした。昨年10月高値からもネット関連株や証券株などが急落したとはいえ、一般の主力株の下げは限定的で、今回ほどの精神的なダメージはなかったのです。
 その後、平均株価は回復したものの、投資家のマインドは傷ついたまま6〜8月が過ぎました。実体経済の劇的な変化への期待に対して、やっぱり駄目かという失望が広がり、投資家の気持は急速に後ろ向きになりました。上記例で見ても、東京製鉄は大幅な増額修正発表にかかわらず、将来への不安が先に立ち株価は反応薄でしたし、半導体関連など多くの銘柄でそうでした。ましてや、UFJとその関連企業は不良債権問題が再び傷口を開き、現実の厳しさを見せつけられました。

 我々がいま恐れているのは、昨年来の相場がすでに終了しており、信用期日の10月にかけて残務整理が本格化することです。昨年10月の人気株NECや野村証券が今年は高値を取れなかったように、部分的には人気の反動があるのはやむをえないにしても、今年4月に日本経済の将来に大きな期待を抱き、積極的に高値を買った投資家が、ことごとく報われないまま半年を経過するなら、仮に信用の期日がなくても、日本の株式市場から国内の積極投資家はますます姿を消すことになるでしょう。
 国内は一貫して売り越し(というより実態はあたりさわりなく売ったものはすぐ買い戻し、買ったものはすぐ売るという売り買いトントンの姿勢)で、外人投資の買い越しぶりで相場が決まるという構図は本来あるべき姿ではありません。デイ・トレードが悪いとは言いませんが、宵越しの株を持たない投資家ばかりが増え、企業家に負けない夢とチャレンジ精神を持って株を買い持ちする投資家が減少すれば、日本経済が活力を復活できるはずがありません。日本の投資家は、賢明(これは一昔前に比べて評価できる)になるのと同時に、投資に対してもっともっと挑戦の気概を持つ必要があることは明らかです。

 もしかすると、もっと息を長く相場を考える必要があるかもしれませんが、私は以上の考えにより、9月の上昇を強く期待しています。
 ここにきて、PER割安の鉄鋼株や川崎汽船などに水準訂正の動きが出てきました。中国経済や市況の動きを映すものとはいえ、個人投資家の投資意欲復活の兆しであると明るく受け止められます。ソフトバンクの堅調もそうでしょう。
 問題は、なんといっても半導体を中心とするハイテク株です。米国の半導体株指数は371ptと最安値に接近してきました。日米の半導体株の動向が、9月相場の鍵を握るといって過言ではありません。その意味で、明朝、インテルの中間発表後の半導体株の動向が注目されます。

 最後に、9月入りで、相場全体が正念場を迎えていると考えるわけですが、私のコアストックである双日Hにとっても、来週に予定される新再建計画発表を控え、いよいよ正念場に突入していることは疑いありません。私見では、リスクは大きなものではなくなっていると考えるものの、資金配分のバランスから、目下は買い増しせず、静観に徹しています。


第302回 待つ日々<8/25>

 相場水準は1週間前よりやや上昇しましたが、我々の部屋の状況はほとんど変化していません。喫煙スペースに何人か集まれば、最初に出る言葉は「きょうも暇だね」か「やりようがないよ」で、続く言葉は「何しに会社に出てきているのだろう」です。
 前場は新聞を読んだりするうちにわりと早く過ぎますが、後場はやたらと長く感じます。居眠りする人もいます。私はこのところ歴史小説を何冊も読みました。
 三井松島が昨日1億株を超える破天荒な出来高を記録するなど、中には動いている銘柄もあり、我々のように漫然と日を送っている人ばかりではないはずなのですが、どうにもこうにも動きがとれないのです。(後記:後場に入って平均株価が急上昇してきましたが、事情はあまり変わりません)

 動きがとれない事情はおよそ次のように分解できます。
 @我々の顧客(デイ・トレーダーではない普通の投資家)は様子を見たがっている。
 A我々は場合によっては、顧客の尻を叩いてでも投資意欲をかきたてなければならないと思っているが、いまは我々自身も様子を見たがっている。
 Bデイ・トレーダー以外のほぼ全員が様子を見たがる理由は、相場のトレンドが見えなくなっているからであり、かつ見えないながらにも一つの方向に賭けようという意欲を持つことが難しいからである。

 ここまで書いたところで、1年前はどうだったのだろうと思い、1年前のバックナンバーを読み返したところ、なんと題名が「めくるめく日々」(03.8.27付)となっていたので、思わず笑ってしまいました。今回の題名に掲げた「待つ日々」と奇しくも好対照です。
チャートで見ると、日経平均は1万数百円で、いまとほぼ同じです。ついでにいえば、武者氏はじめ有力ストラテジストが非常な弱気を言っていることもいまと同じです。それでいて、我々の気持がその頃と大きく違うのは、相場の若さについての認識だと思います。

 前回も書きましたが、現在の市場に色濃く漂う気迷い感の根源に、相場が伸びきっちゃったのじゃないか、あるいは買い尽くしてしまったのではないかという疑念があることは確かだと思います。1年前のいま頃は、5月から7月初めにかけて鮮烈な上昇で1万円回復、その後調整をへて再び1万円を回復してきたときですから、強気側から見れば、まさに前途洋々の局面であり、私も「大政奉還の前夜の状況ではないでしょうか」と書いています。
 それに対して現在は、ほとんどだれもが、随分来てしまった・・・・と心の半分で思っています。つまり、勝ち戦に乗じて敵陣深く攻め込んだのはいいけど、今度は風向きが変わり、自分だけ逃げ送れてしまうのではないかという不安が心の底にわだかまっているのです。

 不安を端的に表わすのが、みずほFGの株価です。昨年の5万円台安値から4月には56万円まで10倍近くに買われ、UFJとパフォ−マンスの首位を争いました。現在、40万をわずかに越える水準で心細い動きを続けていますが、50万円台を買ってしまった私の知人は、なんで1年で10倍近くにもなった株を買ってしまったのかという後悔と、もしかすると20万円台くらいまで下げるかもしれないと不安と、ええい、どうにでもなれというやけくそ気分が入り混じり、ほとんど思考停止状態に陥っています。

 私見では、現在の相場には、投資家の買い疲れ気分や漠然とした不安感をベースにして、実態が悪いから売りという弱気ではなく、実態は悪くなくてももうそろそろ峠だよという「相場観」が強く働いていると思われます。

 日米の半導体株がまさにその「相場観」で見送られています。
 ちょうど今朝の日経に「シリコンサイクルの行方」という記事がありますが、そのグラフを見ると、どきっとしてしまいます。描き方によって印象が相当に変わるはずですが、そのグラフは、世界の半導体需要がこの数年に急拡大し、4年前の壮絶なバブル需要時にまさに迫ろうとしていることを如実に印象づけます。天井を打った後の悪化のすさまじさを身に沁みて体験しているだけに、そのグラフを見て寒気を覚えるのは私だけではないでしょう。
 文章を読むと、実態はそれほど悲観的でないことが分かります。半導体業界の専門家の意見は、今回は調整があってもそれほど深刻なものにはならないという点で一致していると書かれています。もし軽い調整なら、96〜97年がそうであったように、株価はむしろいまが底値圏という可能性もあります。
 ところが、株式業界の半導体アナリストの意見は、総じて株価に対して非常な弱気です。たとえば、代表的な弱気派の佐藤氏などは、「マルチプルの調整」で株価は実態の悪化に輪をかけて下がるという意見です。
 この「マルチプル」という言葉は全然知らなかったのですが、どうも「期待感」と訳して大過なさそうです。すなわち、半導体関連株への投資に対する期待感が減少し、PERが低下すると考えるわけで、佐藤氏に限らず、実態の動向を云々する以前に、「相場観」がそもそも根本的に弱気というしかない次元で、株価に悲観論を述べているアナリストが多いようです。

 現在の実体経済は悪くないとはいえ、弱気の「相場観」を持てば、いくらでも悲観的に考えることは可能です。半導体は長い目で見ても、もう大きくは成長しないよ。中国もそろそろ成長の反動が来て、鉄鋼はいまだけ、海運はそのうち船腹大過剰になり船賃が大暴落する。アメリカは原油高・金利高の二重苦で不況に突入し、日本の輸出関連企業も打撃を受ける。・・・・・・・・
 長々と書いてきましたが、結論的に、私はこれらの弱気のほとんどが、おそらく正しい認識ではないと思っています。
 ひとつひとつの弱気に反論することは難しいとはいえ、発想の根本に「相場観」としての「もう」があることで共通します。市場の格言の「もうはまだなり」の「もう」です。
 4月には「まだまだ」という強気が一時的に増大したものの、国内に強気が充満したのはあのときだけで、国内ではつねに「もう」が潜在していました。もし4月が強気の飽和点だったとすれば、昨年以来ほぼ一貫して売り越しもしくは模様眺めを続けた国内投資家のほとんどは実にクレバーだったということになります。
 経験則からは、相場のピークではもっと度はずれの馬鹿騒ぎが起こるはずです。4年前はいうまでもなく、96年のピーク時も、国内は総じて理屈抜きの強気に傾きました。感覚的には、現在は「まだ」であり、大きなピークを形成しておらず、上昇相場の途上にあることが疑いないと思います。

 しかし、にもかかわらず、現実の株価は買う人が多くならない限り上がるはずもなく、目先的には方向感を持つことがきわめて難しい状況です。たとえば、日経平均で9600円あたりまで押すという意見も一部にありますが、そんなことはありえないと反論する根拠も気概もないというのが実情です。
 したがって、様子を見るしかないということになります。様子を見るといっても、最近は、日本株が独自的に動くことは考えにくいので、極端に言えば、朝起きて、NYとナスダックの終値を見たら、その日はそれでほぼお終いといっても過言ではない状況です。(今日の後場の動きは変化の兆しかもしれないと期待します)

 毎日様子を見ながら、何を待っているのか、それが問題です。
 私が待っているのは、半導体株の米国市場における本格的な反転です。
 4月末の急反落時に、片方の原因となった鉄鋼・海運・建機など中国関連への過度の弱気は修正されつつあります。もう片方の原因となった米国経済の先行きへの漠然とした不安は、いまも払拭されておらず、特に日本株に強い影響を与えているのは、米国の半導体株の不振です。
 私見では、アナリストの「相場観」は多分に心理的な要素が強く、市場のセンチメントに強く影響される性質を持っています。(昨年以来今年4月までの銀行株アナリストの「相場観」はどれほど市場を後追いしたものであったか)
 おそらく、日本の半導体株はすでに底を打った形になっており、近々にも米国の半導体株の底入れが鮮明化するはずです。そして、半導体株の上昇は、日本株市場のセンチメントを抜本的に変化させるものと考え、その時が来るのをじっと待っています。


第301回 焼け跡の原理<8/18>

 前回述べたインボイスなど最後まで元気がよかった新興市場株も急落し、我々の顧客の資産は水浸しです。株価ボードで銀行株の並んだあたりを見ても、電機株のあたりを見ても、高値つかみさせてしまった顧客が顔をしかめる様が思い浮かび、プレッシャーとため息が先に立ちます。
 昨日の日経平均が38円高、今朝は30円高、下がってはいないことを喜ぶべきかもしれませんが、我々の部屋には、電話はほとんど鳴らず、あきらめと焦りと陰鬱さが混じり合った澱んだ雰囲気がたちこめています。
 去年10月高値からの反落場面も暗いムードに襲われかけたものの、多くの人がまだまだ大丈夫という明るい気持を失わないうちに、相場が反転しました。今回は、日柄や平均株価の下げ率ではそれほど変わらないとはいえ、我々の気持の暗さは格段に深刻です。

 我々外務員、そしておそらくは多くの投資家の気持がいま特に暗い理由は、次の点だと私は思います。
 昨年10月には、「買い尽くした」という感じがまったくなく、仮に上昇相場が終わったとしても、反落はたいしたことがないというたかをくくった気持が持てました。それに対し今回は、銀行株を筆頭に各業種の大中小、優良ボロ割安をすべて「買い尽くした」という感じがかなりあり、極端にいえばバブル崩壊後の下げ相場が再来するのではないかという理屈ではありえない不安も含めて、前途の下落への不安感が心の底に漠然とたちこめています。
 いまはまだ余裕が少しあるけど、これから貧乏になるかもしれないと心配なとき、人の気持は貧乏のどん底にあるときよりもむしろ暗くなるのではないでしょうか。

 そんなことを考えているうちに「焼け跡の原理」という言葉が思い浮かびました。
 現在の相場状況は、まさに我が家の焼け跡にたたずんでいるようなものです。そして、原理の第一は、いくら自分の家が丸焼けになったからといって、ただ嘆き悲しみ運命に愚痴を言ったり悔やんだりする人間に新しい道は開けないということです。
 原理の第二は、自分のまわりがどのような状況にあるかを正確にキャッチすることが大切だということです。丸焼けになったのが自分だけでないとすれば、隣近所だけなのか、それとももっと大規模なものなのか、この状況を正確に把握することにより、他人の命を助ける活動も起こすこともできれば、紀伊国屋文左衛門のように大儲けすることも可能になります。
 原理の第三は、焼け跡だけを見れば深刻で前途が暗く見えるけれども、結果的には、その後の経済活動のうえでそれほどマイナスにならないということです。
 最たる例が日本の戦後復興ですが、そこまで大げさなものでなくとも、例えばその昔の江戸の市内では町中が焼け野原になる大火がしょっちゅう起こり、長年の間には幕府の財政悪化の一因になりましたが、経済活動がそれで停滞するどころか、「火事は江戸の華」というくらい人々の気持によい刺激を与えています。命にさえ別状なければ、人々は火事のあとも不思議なほど明るく生き生きと生活したようです。

 現在の株式市場の状況を、焼け跡や焼け野原に喩えることには少し無理があるかもしれません。投資家の多くは評価損を抱えているのであり、実現損を出して貧乏のどん底に叩き落とされているわけではないからです。上にも述べたように、まだ貧乏のどん底ではないからこそ、よけいに気持が暗いともいえます。
 しかし、我々の気持の中では、もうすでに十分に丸焼け状態です。株価ボードは廃墟の跡であり、株価が明日にもぴゅっと急反発するかもしれないと期待する人はほとんどいません。
 だから、上記の焼け跡の原理が当てはまるはずだと私は考えています。
 焼け跡だけ見ていれば、まったく深刻で、希望は湧いてきませんが、だからこそチャンスなのだと考えます。

 午後はじまり直後の日経平均は40円安です。昨日増額修正して前場43円高まで買われた日本化学が360円台まで伸び悩み、PER10倍、PBR1倍という第一部の化学ではこれまでは考えられもしなかった株価形成ではないでしょうか。
 先行き大変だぞというムードが支配する市場では、何かを信じることは大変なことです。PERはもちろん、PBRだって信じられないという風潮が高まることもやむをえないことでしょう。
 焼け跡の中で、風潮に流されず、ひとりよがりな過大な期待も抱かず、やるべきことをやることは難しいことですが、だからこそ挑み甲斐もあると考え、自分の心を前向きに保っていきたい考えています。
 半導体関連や鉄鋼・海運の低PER株に加え、昨日決算発表した日本化学(4092)やアルバック(6728)、阪和興(8078)などは焼け野原の中でもひときわ魅力的に思え、注目しています。


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